
従来の物流業界では、さまざまな業務が、経験者の勘頼みで属人的になっていました。
しかし、長く業務を担ってきたベテラン従業員が高齢化し、ノウハウを継承する若手も不足する中、業務の進め方を見直さなければならない時代になっています。
そのような物流業界で近年注目されているのが、物流業務の多くの工程を効率化し、経験値を問わず業務の標準化を実現できるTMS(輸配送管理システム)です。
本記事では、TMSの導入を検討している方に向けて、TMSでできることやメリット・デメリット、自社に最適なシステムを選ぶポイントを解説します。
目次
物流業界の2024年問題で、
EC通販事業者がすべき3つの対策とは?
1TMSとは

TMSとは「Transport Management System」の略で、商品が物流センターから出荷された後、消費者に届くまでの情報を一元的に管理し、各プロセスを最適化するためのシステムです。
出荷から配達完了までには、適切な配車のために以下の情報を把握する必要があります。
- 各トラックの現在地
- 現在トラックが積んでいる荷物の量
- 配車の段階でトラックに積める荷物のサイズ・重さ・種類(温度帯など)
- トラックが使用した燃料の量
限られたトラックをやりくりしてスムーズな配送を実現するには、こうした情報を取りまとめ、的確な割り振りをする司令塔が必要です。このような作業は、経験豊富な従業員の勘に頼って行われるのが物流業界では一般的でした。
しかし、アナログ的な管理は属人化を招くことになる上、荷台のスペースを十分に活用できなかったり、より効率的な配車を見逃したりする可能性があります。TMSを導入すると、配車や荷台スペースの管理などを最適化し、以下のような管理業務を効率化することが可能です。
- 配車・配送計画
- 進捗管理
- 積付
- 運賃計算
- 請求書発行
2TMSの機能
TMSには、物流の工程全体を管理できる、多くの機能が搭載されています。輸配送業務の中心を担う配車管理、配送進捗管理に関する機能を中心に、その詳細を確認していきましょう。
配車・配送計画管理機能
配車・配送を無駄なく行うには、まず乗車できる人員と使用可能な車両を確認し、以下を組み合わせて最適な配車・配送計画を導き出すことが必須です。
- 配送先に関する情報(届ける場所、配送の時間帯、納品方法など)
- 荷物に関する情報(サイズ・重量・温度帯など)
TMSを用いると、人員と車両の情報を事前に登録することが可能になるため、複雑な計画立案作業を人力で行う必要がなくなり、ミスやコストの削減、稼動の効率化を実現できます。
また、それぞれの車両の稼動率を基に車両の燃料費や従業員の作業量をデータ化することで、従業員全員の負担が均一になるようにルートを自動計算することも可能です。
配送進捗管理機能
トラック・ドライバーの業務状況のイメージ

TMSでは、GPSやドライブレコーダーなどを使って、トラックやドライバーの状況をリアルタイムで追跡できます。「出発」「配達」「休憩」「集荷」などの状況がリアルタイムでわかることで効率的な配車ができるだけでなく、配送先からの問い合わせにも的確な回答ができるため、顧客満足度の向上につながります。
経理管理機能
TMSでは、トラックが1日に消費した燃料費などの経費管理や、運賃などの支払請求・入金管理も可能です。経理業務もTMSを中心に行うことによって、より一元的な情報管理が実現できます。
積付管理機能
トラックに積める荷物の量は、積み方の工夫によって最大化することが可能です。
TMSの中には、最も効率的にスペースを活用できる積み方を自動的に計算できる機能を搭載しているものもあります。
バース予約機能
荷物の積み下ろしのためにトラックが停車する場所を「バース」といいます。
TMSによっては、バースの空き状況を確認し、空き時間に合わせて事前予約することも可能です。バースが事前予約できると、荷待ちの時間削減につながります。
物流業界の2024年問題で、
EC通販事業者がすべき3つの対策とは?
3TMSのメリット

TMSを導入すると、物流企業の作業効率化のほか、人件費や配送コストの削減を実現できます。
具体的には、下記のようなメリットにより、アナログでの配送管理に比べて業務を効率化することが可能です。
物流コストを見える化しコストを削減できる
TMSを導入し、人件費や燃料費などの配送コストを自動計算できるようにすることで、集計・管理したデータを基に人員やトラックの配置を最適化できます。結果として配送の無駄がなくなり、コスト削減につながります。
また、同じ作業をする従業員の業務量、業務時間が均一化されることで、1人ひとりの残業が減り、人件費削減や人材定着率の向上も期待できるでしょう。
配車業務の属人化を防げる
物流業界でも人手不足や高齢化が進む昨今、あらゆる業務を標準化し、誰でも対応できる状態にしておくことは重要です。特に配車業務については、担当者がこれまでの経験から荷物とトラックの組み合わせを判断する傾向があり、経験値がどれだけ蓄積されているかによって配車効率が変わる可能性があります。
TMSを導入すると、まず荷物の状況、トラック・ドライバーの状況が可視化され、最適な配車計画が自動的に立案されるため、作業が標準化されます。
加えて、TMSを使い続けると渋滞や遅延が発生しやすいルートの情報も蓄積されるため、ルート変更や出発時間の判断も容易です。これにより担当者の能力や勘に頼った状況を脱し、配車の精度を高めることが可能となります。
利益率が向上する
物流にかかるコストの大部分が、配送時にかかる燃料費や人件費だといわれています。
アナログで輸配送管理を行う場合、過剰積載のトラックや極端に運搬量が少ないトラックがあると、荷物の積み下ろしに時間がかかったり、利益率の低い運転が増えたりして配送コストが増大してしまいます。
TMSを導入すると、待機中のトラックの数や、倉庫に戻ってくるトラックの運行状況と到着予定時刻などがリアルタイムで把握できるため、配車や積載量に無駄がなくなり、利益率の向上が可能です。
4TMSのデメリット

物流業務における業務の属人化やコストの問題を解決できるTMSですが、導入にあたって注意すべきデメリットもあります。
導入するか否かの判断にも関わるため、下記の2点が自社にどの程度影響があるのかを、十分確認しましょう。
自社に合うTMSを選ぶのが難しい
TMSは、配送計画、進捗管理、運輸管理、バース予約など、物流の機能に応じてシステムが分かれています。導入にあたっては、自社の物流課題をカバーできるかどうかをまず初めに検討することが重要です。
経営陣と現場の従業員では視点が違うため、現場での課題点や強化すべき点をヒアリングする必要もあります。必要な機能を絞り込み、必要なサービスを納得がいくまで精査・選定し、自社に合ったTMSが見つかるまでには、長い時間がかかります。
従業員への説明と社内研修に時間がかかる
TMSを導入すると、社内の物流システムが大きく変わります。
物流に直接的に関わる従業員はもちろんですが、経理や総務など、間接的な関わりでもシステム変更によって大きな影響を受ける従業員にとっては、これまでの業務の進め方を根本的に見直さなくてはならなくなるでしょう。
「なぜ、やり方を変えるのか」
「やり方を変えると、どうなるのか(ユーザーにとって何が良いのか)」
を、丁寧に説明してから導入に移るようにしなければなりません。
また、社内にTMSが浸透するよう、導入前後に研修を実施する必要があります。企業の規模感によっては、実際の業務でスムーズに使いこなせるようになるまでには、さらに一定期間がかかります。
物流業界の2024年問題で、
EC通販事業者がすべき3つの対策とは?
5TMSを選ぶポイント
TMSは物流業務の各プロセスを自動化・効率化するシステムですが、すべての機能を網羅的に標準搭載したTMSはありません。標準機能にオプションで必要な機能を追加していく方式が一般的です。
TMSは、下記の3つのポイントを押さえて絞り込んでいけば、自社に最適なシステムを選ぶことができるでしょう。
自社の課題を把握し、優先順位をつけてTMSを選ぶ
まず、自社の物流課題を洗い出し、解決の優先順位をつけることが重要です。
例えば、配車の無駄が多い場合は「配車・配送計画システム」、配送状況の問い合わせに速やかに対応したい場合は「車両管理システム」など、それぞれの課題を解決できる機能から絞り込むことで、自社に最適なTMSを効率的に選ぶことができます。
すべての課題をカバーしようとすると高額な投資が必要になるため、特に優先順位の高い機能から導入していくという手順で進めましょう。
ほかのシステムとの連携を考慮する
TMSには、ほかの物流システムと連携できる機能が備わっているものもあります。
例えば、入荷・在庫・流通加工・帳票発行・出荷・棚卸など、倉庫や配送センターでの業務効率化に役立つ倉庫管理システム(WMS)などと連携できるものがあります。
すでに物流関係のシステムで導入しているものがある場合は、そのシステムとの連携が可能なTMSを選んだほうがより効率的です。
拡張性を考慮する
TMSの導入にあたっては、「現時点でボトルネックとなっている課題を解決すること」だけでなく、将来の拡張性も視野に入れて選びましょう。
現在は使用する見込みがない機能でも、事業成長に伴って必要となりそうな機能がある場合は、その機能が将来必要になったときに追加できるTMSを選ぶのがおすすめです。
6まとめ:TMSを活用して物流を効率化しよう
輸配送に関わる人材の不足が深刻化する昨今、業務の効率化や物流コストの軽減は喫緊の課題です。TMSの導入には高額な投資が必要ですが、物流企業が変化に対応し、成長し続けるには欠かせないシステムだといえます。自社に最適なTMSを導入するためにも、まずは社内で十分な検討を実施しましょう。
物流業界の2024年問題で、
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